●さよならを教えて comment te dire adieu…
2001年CRAFTWORKより発売のADV
詳しくは「ファナティックアドベンチャーノベル」です。


このゲームこそ私がPCゲームのADVというジャンルの中で一番優れていると思うゲームです。
なんと言っても、文章「一語一句」が心のなかにグサリと音をたてるように突き刺さるのが魅力です。
買ったきっかけは、まだクラフトワークなんて会社も知らない頃にソフトのパッケージの雰囲気に惹かれに惹かれ、
結局買ってしまったと言う、なんとも行き当たりばったりなきっかけでしたが、買って良かったと思っています。
当時は「夕焼けの屋上」とか、「狂気」とかそういった言葉にとても弱かった時期だったので、
(これはもろにリーフ社の「雫」というゲームが原因ですが…)まぁそんなわけでこのゲームに出会ったわけです。

他のサイトのレビューなんか見るとあんまし高い点数ついている所ないのがアレですが、
変に有名じゃない所に好感が持てますね。
とりあえず、このゲームの素晴らしさを是非知って欲しいので、ネタバレにならない程度に紹介します。

まず、あらすじ等。(説明書の引用で…)
主人公はとある女子校に通う教育実習生。
実習期間を無事に終え、正規の教員になるのが彼の目的だ。
だが、彼は精神的に疲れきっていた。
不安、緊張、対人恐怖……そして、日々襲いかかる悪夢。
放課後の校内で出会う少女たちに対する、恐れ、愛着、情欲。
同僚である大人の女たちに対する、嫌悪感、依存心、禁忌感。
―こんな自分が本当に教員になどなれるのか?
悩む主人公に襲いかかる、義務感と重圧の日々。
彼は、夕映えの放課後を続ける。彷徨い続ける。

と、こんな感じですね。
普通のADVならまずこんな設定はありえませんね。
多分教育実習に行く事になった学校は女子校だった、ウッシッシ。とか
同僚の教育実習生と仲良くなった、ウッシッシで終わりでしょう。
それが、このマイナス的思考に元、ストーリーが進むわけです。

では、ここらでキャラ紹介も。(こちらも引用で…)
主人公は置いておいて、

○巣鴨睦月(すがもむつき)
放課後の教室に独り佇む儚げな美少女。
主人公は、睦月の少女らしい清純な清々しさに強く引かれるが、
同時に、その現実離れした聖性に怯えている。
「そうして、いつか…天に帰りたい…って」

○高田望美(たかだのぞみ)
屋上から下界を望む孤高の少女。
快活で人懐こい印象だが、瞳の奥に底知れぬ闇を秘めている。
主人公は、煙草を吸いに屋上に出ては彼女と出会う。
「空を飛ぶのって、どんな気分なのかなぁ?」

○目黒御幸(めぐろみゆき)
図書室の司書係を勤める少女。
対人関係が苦手で、図書室に入り浸っては一人本を読み耽る毎日を送っている。
奇妙な豆知識を多く持つ。
「怖いんです、人が。特に…男の人が…」

○上野こより(うえのこより)
頭の先から空気が漏れているような少女。
ヌケているように見えて、時にグサリと来る発言をするのが特徴。
弓道部に所属している。
「また来たんですねぇ、ほんとスケベなんだからぁ」

○田町まひる(たまちまひる)
主人公をおにーちゃんと呼び慕う幼なじみの少女。
感情の起伏が激しい性格は無邪気とも取れる。
猫のように気まぐれで子供らしさの抜けない少女。
「おにーちゃんは…ときどき意地悪だ…」

○高島瀬美奈(たかしませみな)
教育実習生である主人公の担当教論。
スポーツクラブに通う健康的な女性。穀然とした態度を崩さない。
何故か主人公にとって嫌な相手。
「そりゃそうよ。私をなんだと思ってるの?」

○大森となえ(おおもりとなえ)
ハスキーボイスの気怠い保険医。
異常とも取れる愛煙家。主人公にとっては気軽に話のできる存在。
高島瀬美奈とは高校時代からの友人でもある。
「へっへっへぇ〜、どうせまたタバコ吸いに来たんだろ?」

と、メインキャラクターは一応この六人ですね。
後でも書きますが、私は特に「高田望美」と「目黒御幸」のシナリオが好きです。


とまぁ、紹介はこの辺にしてシナリオについて優れている点を幾つか。
始めにもかいた通り一語一句がとても印象に残る作品で、何度も読みたくなるシナリオでした。
当初は詩的な感じで意味を考えず流して読んでいたのですが、何度もプレイするうちに意味が開けてきて、
とても切なく、「やられた。」という感じが受け取れるシナリオでした。
何と言っても最期のネタばらしが最高です。
プレイしているうちにどんどんと疑問が沸いていって、最期にこうか!と言う全体を通しての流れも素晴らしいモノでしたし、
他のゲームでありがちな、「強制的な同じセリフ」があまりなく、
狙うキャラクターを変える事でゲームのシナリオ文章が大きく変わると言う、ADVの何たるかを考えてくれた面白いシナリオでした。
ネタバレを含む文章も交えますと、こちらの文章がゲームのワンシーンの文章となっていますので、
時間がある方は覗いて下さい。

「さまざまな意味や指令や主張を載せられた電波に物理的に射抜かれ、それでも僕らは生きているのだ。」
この文章だけ上のリンク先から抜粋させて戴きますが、この文章を見ただけでとてつもない焦燥感にかられました。

そして、先ほどから何度も書いている「一語一句」がこのゲームに「声」があると言うありがたさを知らせてくれます。
私はADVゲームに対する「音声」と言うものの意味をあまり感じていませんでした。
特にPCゲームの移植等で「声が入る」等と言う要素には全然惹かれず、むしろそれでイメージの違いが出てしまったら、
マイナスになるのではないかとも思っていた程なのです。
それが、このゲームはどうでしょうか。
本当に良い文章は、声で聞く事でその良さが幾分も増すと言う事を知りました。
はっきり言って、いままで私は幾つものゲームをやりましたが、「エロ目的の声」以外で声が必要と感じたのはこのゲームが初めてです。
むしろ他のゲームでは声も飛ばす傾向にあったし、声が出る事でイメージが崩れたゲームも少なくありません。
(例えば「雫」のように言葉よりもキャラの魅力で惹かれたゲームなら声があるだけでイメージが崩れると思います)

とまぁそこで、私が一目置く「高田望美」と「目黒御幸」と言うキャラについて語りたいと思います。
上に書いてある説明の通りではあるのですが、「高田望美」は屋上に佇む孤高の少女です。
多少「雫」の「瑠璃子」を思わせる設定ではあるのですが、現実的な言動がその違いを示します。
屋上に佇む彼女のワンシーンのCGを見たときはそれは感動しました。
(実はその絵をパクって昔、絵をかいた事があるのですが…このゲームやらないとわからないですね。)
まぁそれは置いておいて、彼女の声とセリフが見事なまでにマッチしていてとても良い雰囲気を出していました。
そうそして、ここで語るべきなのが音楽なのです。
さっぽろももこ氏による作曲で彩られたこの作品で最も良いと感じたのがこの高田望美と言う少女のテーマ曲なのです。
音楽については、また後で書きます。
この少女の良い所はネタバレを含むシーンが多いのでアレなのですが、
そのシナリオが何度も読みたくて他のキャラを狙っている時も屋上に彼女に逢いに行ってました。
儚さ漂うシナリオを望むならこのシナリオは一度はやってみる価値があると思います。

それで、もう一人の少女「目黒御幸」について。
図書館に潜む「委員長」みたいな感じの少女ですが、どちらかと言うと嫌々推薦された「副委員長」って感じかな…
彼女のセリフはとても印象に残ります。そして声が最も必要な少女かもしれません。
音量が他の少女に比べ多少低いのですが、この少女が話す時は音量をわざわざ上げて聞いてました。
シナリオ半ばまではそれほど大したこともないのですが、
終盤では彼女が中心にシナリオが展開しているとも受け取れるように大事なキャラクターになります。
特にそれぞれのキャラのエンディング手前での彼女のセリフはどれも印象に残る話で、
わざわざそこでセーブデータをとってあるくらいです。

それと、付け加えるならば「大森となえ」についても少し。
彼女のセリフには所々関心を持たされます。
特に(詳しくは書きませんが)あのスーパーマリオに対して吐いた暴言は忘れられません。
確かにそうだな、と感じられる彼女の説得力ある会話がとても良く印象的でした。

それと、キャラとは少し異なるのですが、主人公の思考と言うのもとても良く出来ていました。
ゲーム終盤近くでは彼の行動一つ一つがとても意味がある事に思え、
それと同時にズバリと納得を誘うような思考には度々納得させられる事もあります。
あるシーンの一言は私自身とても印象に残ったと共に、驚かされる一言でした。
結構大きくネタバレになるセリフなので書きませんが、このゲームをプレイしてなんらかの感想を持った人ならば、
きっと解ってくれると思います。


まぁ、取りあえず誉め殺しはここまでで、少し気になった点をいくつか。
まずは始まりのシナリオ部分が大きくユーザーを遠ざける結果になってしまっていると思います。
多少でもグロい表現に耐えられる人でなければ最期までのプレイには至らないでしょう…
あと、Hシーンですかね…
良いと思う人は良いと言うのでしょうが、私はHとは感じませんでした。
むしろ他のシーンで心がやられてしまった為に、Hに対する興味が失せてしまったのだと思います。
18禁という枠でなければ表せないテーマとシナリオであったのですが、Hシーンは要らないと感じました。
まぁ、某他のゲームのように「ただHシーンがあるから18禁だけど、シナリオは全然健全で、移植バリバリ希望だよ!」
みたいなゲームに比べれば100倍もマシなのですがね…
しかしまぁ、Hシーンもシナリオの一部と考えられるこのゲームでは、
Hに対する需要が湧かなかったと言う表現が一番しっくりくるかもしれません。
まぁ総括して言うと、多少グロい表現にも耐えられる人間でなければ、このゲームの良さは伝わらないかもしれません、
エロを目的にやるのであれば、別なメーカーの「陵辱なんたら〜」とか「痴漢なんたら〜」とかやって下さい。
グロいと文句を付けるのであれば「萌え萌えなんたら〜」とか「メイド(猫耳)なんたら〜」とか言ったゲームをやって下さい。
と言わんばかりの作風です。


えっと、次は取りあえずCGについて、
原画は、他の所にも書いてありますが私の尊敬する「長岡建蔵」氏です。
立ちキャラとイベントシーンとパッケージの絵でなんかガラリと絵の質が違うのですが、
立ちキャラは正直言ってなんか恐いと言うかバランスがおかしいです。
なので、立ちキャラは置いておいて。
イベントシーンの絵にも多少ばらつきがあるのですが、
とても良い!と言う絵と、バランスが…と言うえの2種類に分れます。
この安定の無さがなんか私の心をくすぐらないでもないのですが、良いのは本当に良いです。
そして、イベントシーンにはもう一つ特筆すべき表現方法が取り入られてます。
同じ絵をアップにしたりして使う事で主人公の視点がどこを向いているかと言うのが大変捕らえやすいのです。
これはこのゲームをやっていただくと分ると思います。
とても上手い表現方法だと感じました。(他のゲームで取り入れられているのはあまり見た事がないです)
それで、まぁこれはクラフトワークと言うメーカー独特の生々しい彩色の仕方の問題ではあると思うのですが、
長岡氏の絵で色がついていない絵とついている絵ではガラリと雰囲気が違うのです。
言うならば、会話シーンに入る少女達の感情を示した顔グラフィック(色無し)や、説明書の後ろ部分に存在する、
長岡氏のオリジナルイラスト(色はなくグラデーションだけ)はとても素晴らしかったです。
色が付く事で、とても生々しい雰囲気が与えられるため彼本来の絵の可愛らしさが消し飛んでしまうのです。
人それぞれの感性の違いだとは思うのですがね…


次は音楽についてですね。
音楽は先程も書いた通り「さっぽろももこ」氏で、主題歌の編曲は「I’ve」を使っています。
しかし、このゲームの音楽のすばらしい事…
「檸檬」等で絵の原画の方も描くさっぽろももこ氏ですが、なんと言っても彼女作曲の音楽は素晴らしいです。
特に屋上の少女高田望美の曲。これは外せません。
それと、主人公の移動選択画面の曲ですね。
奥深く、無邪気さとカッコ良さと儚さを取り入れた音楽。しかもよくありがちなループ曲でフェードアウトという構成ではなく、
一曲一曲にちゃんと終わりがあるのにとても好感が持てます。
音楽の終わり目がこんなにも気持ちのいいモノだとは今まで感じませんでした。
それと、主題歌について。
一応歌詞載せちゃいます。
ゲームCDから取りこむと音量が低いのが残念ですが、
「昼と夜の間で時が止まる…」と言った詞は素敵でした。


システムについて。
ぶっちゃけて言えばヴィジュアルアーツ形式のあたり障りのない普通のADVノベルではありますが、
文字の見せ方ではとても演出の凝ったシーンも見受けられました。
多くの文字が一気に画面上に出る事で、プレイヤーに焦燥を抱かせたり、
文字の重要部分をわざと消して表示したり、ですね。
あとは、先程も書いたようにCGの見せ方が特殊です。


全体を通して、
私はこれほど完成度と言うものにこだわりをもたずとも、何度もプレイ出来るADVにであった事はありません。
文章に力があります。正直いえば、ライターさんが変わって1歩前進したような気がします。
ただ、本当に世間的な人気はないのでクラフトワークのHPも潰れてしまったりと、先行き不安ですが。
長岡建蔵氏やさっぽろももこ氏に興味がわいたのも、もともとミーハー的だったわけで無く、このゲームがあってこそです。
そんなわけで、誰かプレイした人がいれば感想ください。
ただ鬱気味になっちゃうかも知れませんが…
このゲームをプレイして鬱を乗り越えれば、その時は最高のゲームだと感じられるはず…


2003 7/26


一つ前へ⇒