「三文劇」

もし、この教室が舞台であるとして。
もし、この私がヒロインなのだとして。

この教室の配置は、ちゃんと現実に基づいて
創られたのだろうか…とか。
この教室を占める人口の何割が書き割りで
何割が役名のある登場人物なんだろう…とか。
この窓の向こうに広がる空が
本当に在るものなのか…とか。
然程重要でないと知りながら、そんなことを考えさせられる。

恒久に変わらないような日常が、
何度も公演される巡回の舞台劇のように
幾度となく終わりを向かえ、そして始まる。

一日が開演され、拍手喝采もないままに幕が下りる。
チャイムがブザーのように響き、
夕日がスポットライトのように照らす。
夜が緞帳のように下りてくる。

教室と言う舞台で繰り広げられる
日常と言うありきたりな演劇。
果たしてこの劇は無事終幕を迎えられるのだろうか。

劇の演目は何なのだろうか。
喜劇だろうか、悲劇だろうか。
私は、この劇を終える時
幸福でいられるだろうか。
不幸になるのだろうか。

一日、一日と過ぎ行く公演日。
ただ幕が上下するだけの毎日。
観客はなく、私一人だけが演じるヒロインを誰も見ていない。
原作も演出も脚本もない。
ヒロインだけに任された舞台劇。
私だけに託された舞台。

いつも私だけが正しかった。
私だけの舞台を私だけのために開演した。
スポットライトは私だけを照らしていた。
幕は私だけのために開き、
私だけのために下りた。

私はいつまでこの舞台劇を演じて
拍手喝采を待てばよいのだろう。
いつになれば私の望んだ終幕を迎えられるのだろう。

さぁ、席を立ちなさい。
そして両手を掲げなさい。
まるで宴のように手を叩きなさい。
私が舞台から消えた後で。
最後は拍手で迎えなさい。


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