●蜜柑
2001年C'wareより発売のADV


C'wareと言えば、私の青春時代を飾ったメーカーでして、
処女作である「禁断の血族」からずっとの付き合いでしたが、
敬愛するライターの「剣乃ゆきひろ」氏の移籍とともに疎遠になり、
「luvwave」「Re-leaf」あたりから再びゲームをプレイしていました。

とは言え「Heart And Blade」あたりで再び倦怠期になり、
久々に触れたソフトが「蜜柑」と言うわけです。

「蜜柑」はC'ware独特の陰鬱で緻密な雰囲気を漂わせるゲーム構成で、
蜜柑と言うタイトルは「未完」の掛け言葉になっており、
ところどころに巧みな技法を感じました。

あらすじ。
主人公は若くして文学賞を取り続ける期待の新人作家。
しかし、書くもの書くものが全て賞に入るので、いささか自分が作家になった意義を忘れてしまう。
そこで、休養にと帰還した田舎である古本屋を見つける。
古本屋に自分の本は置いてあるか…
等と軽い気持ちで自分の名前を探していると、自分の書いた覚えの無い作品が目に入る。
タイトルは「虚ろなる器」
主人公は思い出す。この作品は昔途中で筆が止まってしまった未完成の作品であると…
作品の為に考えたヒロイン「希」と言う人物の名前。
しかしそのヒロインの姿が思い起こせず断念した未完成の作品だったのだ。
すると古本屋の主人が言う。
「その本は泣いています」
気付くとその本屋には未完成で投げ出された作品が所狭しと並んでいた。
主人公はその本を完成させるために、もう一度筆を執る。
と言った感じです。

書かれる本の構想は3つあり、それぞれ、
「病床にて…」
「怨毒の槐」
「いつわりのおとこ」
と言ったオムニバス雰囲気の3つのシナリオに分かれています。

シナリオ。
このゲームの素晴らしい所はシナリオであると胸を張って言えるのですが、
中でも優れていたのが「文章の表現」です。
言葉一つ一つがとても心に入りやすいように、それでいて詩的に書かれているので、
読み手としては、格好の良い文体の中にも意味を何となく感じる事が出来ました。
とは言え、この作品のライターさんは3人いるので、
多分、本の構想別に書き分けられていたと思いますが、
3人いるのにそれを感じさせない言葉選びで、どれも違和感なくプレイ出来ました。

3つあるシナリオの中では「怨毒の槐」が一番印象に残りました。
この話は「希」が主人公の妻と言う設定で書かれた物語なのですが、
一つの館で語られるホラーな物語はとても「怖い」と感じさせてくれました。
とにかく怖かったです。
良くあると言えば良くあるような展開なのですが、
文章の表現力と、陰鬱な雰囲気がマッチしていてとても面白かったです。

ただ、全体を通して、「不安」や「焦り」、「物語の期待感」を煽っていたわりには、
物語の終末が薄く感じて、「えっ終わり?」と言う感じもしました。
ハッピーエンド志向なので、ユーザーを選ばない良い作品であったとは思います。

絵。
塗りに関してはC'ware独特の暗めの色使いをしていて、
愛嬌あふれるキャラクターの絵を巧く物語りにマッチさせていたと感じました。
そして背景が特に素晴らしく、物語へと引き込んでくれました。

音楽。
ピアノ曲のライトで物悲しい雰囲気が一番印象に残っています。
その他も場面場面にて、きちんとした選曲が成されていて良かったと思います。

システム。
オムニバス感覚で物語を一つずつ選んでプレイしていくのですが、
一番良いところで一旦物語が終了し、
他のシナリオを進めなければならないと言うシステムに始めは戸惑いましたが、
徐々に慣れてきて、物語を選ぶたびにその物語に引き込まれていると言う感覚が味わえて良かったと思います。
欲を言えば、「おまけ」で物語を一貫してプレイするモードが欲しかったです。

全体を通して、
今までのC'ware独特の雰囲気に加えられた文章表現の巧みさがやりやすいゲームを完成させたと思います。
読んで続きが気になるストーリー構成。
複線の張り方。
引き込まれる要因の多い良く出来たゲームであると思いました。


2004 10/25


一つ前へ⇒