●好き好き大好き!
1998年「13cm」より発売のADVノベルゲーム


戸川純つながりで、「さよならを教えて」をプレイした後どうしてもやりたかった作品を、
ついにプレイする機会があったので、感想を書きます。

戸川純について知らない人がいると思うので少し補足を。
とは言え私もそんなに詳しいわけではないので、一応女優兼アーティストと言う感じ。
でもその音楽はとても独特で私の心をすぐさまに虜にしてくれました。
レトロな雰囲気で昭和を感じさせる「ゲルニカ」
直情的で、メッセージ性の強い「ヤプーズ」
純粋でありながら、その思いの強さを見せてくれる「戸川純」

とまぁ、そんな感じで「好き好き大好き」(曲)は「戸川純」時代の楽曲で、
「愛してるって言わなきゃ殺す」と言う歌詞が印象的でした。


で、そんな音楽のタイトルを受け継いだこの作品「好き好き大好き!」ですが、
「鬱になるゲーム」としての評判が高く、「さよならを教えて」よりも話題に上げられていました。

あらすじ内容は、
ゴムと言うモノが何より好きな主人公。
その背徳感からか、世間ではどうしても「自分は一人」であるような感じが抜けない。
そんな生活の中、主人公は電車で一人の少女に出会う。
いつも電車の中で友人達と親しく過ごす「蒲乃菜」
そして主人公は毎日のように少女を影から見つめる内に、彼女のことがどうしようもなく好きになる。
僕は彼女をどうしようもなく好きなのに、彼女は僕の存在すら知らない。
そんな僕がとった行動は、彼女を捕らえ、地下室の中で僕だけの「蒲乃菜」として一緒に過ごす事。
汚れた世間から守るように、彼女の体をゴムのスーツに体を包ませ、地下室に監禁する。
主人公の願いは「ただ僕の側にいて欲しいから…」

と言う内容なわけです。
これでだけこのゲームがどんなゲームなのか感じてもらえるとは思いますが、
決して鬼畜系なゲームなんかではありません!
これは断固として私は言えます。
あまりに純粋過ぎるシナリオであると私は感じました。

何処に純粋さを感じたのかと言いますと、
主人公のしている行動には破壊的な要素が一つもないからです。
逆に言えば、「守る」と言った意味の強い行動が多く含まれています。
「ボクの宝物」、「ボクのラバー人形」等など、
ゲーム中に出てくる言葉では、とても儚いモノをボクだけが守ってあげている。
ボクだけが守る事が出来る。ボクだけが見る事が出来る。
そう言った感じの取れる表現が多かった為に、私にはとても純粋なゲームに感じました。

綺麗に言えば、不器用な主人公がその純粋さ故にとってしまった過ちとも言えます。
と、まぁそんな感じの思いを持ちながらこのゲームをプレイしました。


で、シナリオはと言いますと、
全体的に主人公とヒロインの思考パートに分れたりするので、
感情等がわかりやすく、面白く読める内容でした。
ヒロイン中心のシナリオはとても面白かったのですが、
サブキャラのシナリオはメインである「蒲乃菜」の存在がどうでも良くなってしまうので、
少しなじめない所が多かったです。

やはり語るべきはヒロインのシナリオで、深くネタバレになるような事は書かないつもりですが、
とても面白かったので、そこだけ語らせて下さい。

主人公にとっては愛すべき「蒲乃菜」を守り飾るためのラバースーツ。
しかし「蒲乃菜」にとっては、主人公はラバースーツが好きなだけで、
それさえ着れるなら、私じゃなくても良いのではないかと思う。
そんな「蒲乃菜」から発せられる主人公にグサリと刺さる言葉。
主人公の思いとすれ違う「蒲乃菜」の考え。

見ててとても惹きこまれるシナリオでした。
主人公は壊そうなガラス細工にでも触れるかのように、さらって来たはずの「蒲乃菜」に接する。
体を洗う時にも、主人公は紳士的な態度で、席を外す。
主人公にとっての願いは「ただ、蒲乃菜に側にいて欲しいから」
だから、必要以上に触れることもしないし、勿論襲う事もない。

又、主人公にとってゴムは特別なモノ。
そのゴムについて主人公が一生懸命に「蒲乃菜」に語っている姿などは、
想像しても微笑ましい限りです。

とまぁ純粋さを感じさせるシナリオでありながら、やはりラストシーンに近づくにつれて、
主人公の取った過ちに対する報いは、「鬱」を感じさせるのに十分なモノであったと思います。
しかしこのゲーム、エンディングを10個全部みると、11個めのエンディングが現れて、
それがとても救いをもたらせてくれるので、私には「鬱」になれませんでした。
気持ちの良い歯切れのゲームだと感じます。


次に絵について。
まぁ絵は少し昔のゲームであるので特に不満などは言いたくはないのですが、
立ちキャラは結構巧く描けているのに対してイベントシーンの絵が少し変わりすぎかな。
塗りなどが結構変わります。
シーンによっては巧く塗れてるなぁと思うシーンもあれば、ここはちょっとなぁと思うシーンもありました。
あと痛そうなシーンが幾つかあったので、痛そうなのがダメな人にはあまりお勧めしません。
でも「さよならを教えて」に比べれば、まだライトな感じはしました。「
「さよなら」が夕方なら、「好き好き」は夜を舞台にしたような感じ。
まぁ、そんなに酷い絵でもなかった気がするのですが、
さっき見たサイトではボロボロに描かれていたので、
そんな方には昔の「PC98」時代のソフトをプレイして欲しいですね。
1998年くらいならまだ絵にばらつきもあった時代だと思うので、そんなに悪くはなかったと思います。
いつもはラバーに包まれている「蒲乃菜」の素顔が見れるシーンなどは感動すらしてしまうので、
ラバーで顔を覆うと言う表現も効果を成していたのだなぁと思いました。


音楽について、
ギターをベースにした音楽で、とても陰鬱な雰囲気の音楽でした。
巧いなぁと感じたのが、音楽の曲調は似ているのですが、シーンによって音楽が変わる事。
主人公視点と、「蒲乃菜」視点で音楽が微妙に違ったりするのがなんか心地よかったです。
あとゲームを始めて、「このゲームは18禁です…」みたいな事が書かれたメッセージが出るのですが、
この時点でゲームに惹きこまれた感じがするのは音楽のおかげであると思います。


システムについて、
13cm特有の女の子の名前を変えられる機能がありました。
別にそんな特別に名前に思い入れもないので、そのままでやりましたが。
名前が特有なモノが多かったので「蒲乃菜」然り、「みるく」然り。
嫌いな方は変えられると言うシステムですね。
あとは辺り障りのないビジュアルアール形式のノベルADVなわけですが、
エンディングを全部みた後のもう一つの話は面白かったです。
あれで救われた人はこのゲームのユーザーなら多いと思います。


全体を通して、
ゲーム中に鬱になるような表現は少なくなかったものの、やはり最後に救いが待っていたので、
鬱ゲームとしては少し物足りない気もしましたが、
別な点で「純粋さ」を感じれるのがこのゲームの面白さだと思いました。
破壊的な表現も所々にはあるものの、基本的には、保護的な主人公の想いがあったため、
他に存在する、鬼畜系ゲームや凌辱系ゲームとは根本的に違います。
例えて言うならば、主人公が少女を監禁してしまうと言うゲームは他にもあるのですが、
そういったゲームでは、主人公はただ少女を襲うために監禁しているのであって、
保護的な目的などはまったくないわけです。
よく主人公が少女を襲って、監禁して奴隷のように扱うゲームもありますが、
このゲームの主人公はそんな順応さを求めているわけではないのです。
そこに感じたのがやはり主人公の純粋な思いです。

と言うわけで、下手な恋愛ほのぼのゲームよりは全然純粋さを感じられるこのゲームは、
純愛ゲームとして崇めたい所ですが、
やはり痛々しいシーン等もあるので、やはりダーク系が好きな人向けなのかな。
それもダーク系だからと言ってエロさを求めているのではない人向け。
つまり性癖としてダーク系が好きなわけではないけれど(まぁ好きでもいいんだけど)
それだけではなく、シナリオもキチンと愛せる人向けのゲームと言う事で。
ややこしいけど。

いや、でもこれを「鬱になれる鬱過ぎるゲーム」とか「鬼畜系で気持ち悪いゲーム」
とか言ってやがる人は、もう一度このゲームの純粋さに触れて欲しいです。


2004 01/30


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